第2号 知的生産性向上の鍵:統合工程部品表

技術データ管理支援協会は1998年7月に前身である「MASPコンソーシアム」として発足しました。職場の問題解決を可能する道具(変革のイネーブラー)としてのIT整備に取り組んできました。20年間の研究開発のまとめとして、蓄積した技術を紹介します。

IT利用の目的の改革:価値創造と知的生産性向上

間違えると組織の活性を奪うIT利用

近年、日本社会は活性が低下しているように感じます。私たちは「日本の製造業の長所を強化するための情報技術整備と普及」に取り組んで少なからぬ組織や人たちがIT利用の目的を誤解していると感じました。さらに、ITがもたらす危険な副作用を考慮しないために、組織や社会の活性を招いています。

トヨタ風に云うと、ITの周りに「ムリ・ムラ・ムダ」が多発しています。ITを利用すればよいというものではありません。上手に使い分けるよう工夫することが肝要です。今回は、知的生産性向上の方策について解説します。テーマが広範なので、概要と要の部分(さわり)を紹介します。

ITを使う目的は「自動化と省力」である。しかしその前に「合理化と標準化がより重要である」と初期のコンサルタントたちは指導してきました。現在ではその両方に疑問が生じています。

組織が持つ知識と知恵を活用するためにITを使う

2006年頃、P.F.ドラッカーは著書「テクノロジストの条件」の末尾で「日本は意思疎通という意味のコミュニケーションのためにITを使いなさい」、また、「未来のためにITを使いなさい」と勧告しています。

約20年の研究・開発と実践を通して、ドラッカーの指摘の妥当性を確認できました。10年経った今、AIやIOTが実用段階なっています。私たちはその勧告を具体化すると、組織や地域社会が持つ知識と知恵を活用するためにITを使うことが肝要であると考えています。知識と知恵を活用して新しい価値を生み出し、知的生産性を向上させることがいま日本の社会やビジネス組織に求められていると考えます。

製品開発・改良がもたらす付加価値と生産性向上

用途・使用条件を見直す

前号では「日本の長所は顧客志向の改善・改良です。きめ細かにお客様の要望を満たす工夫を重ねて、日本の製造業は競争優位性を獲得した」と指摘しました。しかし、放置すると管理の仕組みが複雑になり、労務費の安い新興国や途上国に圧倒される恐れがあります」。

製品の開発・改良に当たって、まず製品の用途・使用条件を見直すことが肝要です。用途や使用条件を十分に考えないで製品を開発し、製造・販売することは企業だけでなくお客様や取引先を巻き込んでムリとムダを生じさせます。一時的に売れても、お客様が製品を使ってくださらないなら、売れ行きは止まり、投資がすべて無駄になります。

用途・使用条件に応じて製品を改良する

お客様の用途・使用条件を調べると市場の多様性が見えて来ます。同じ用途・使用条件お客様が大勢いらっしゃるなら、沢山売れる可能性があります。ある用途・使用条件について必要性が高いお客様は、適正な価格で買ってくださるでしょう。用途・使用条件はマーケティング戦略を考える鍵となる概念です。

用途・使用条件に合わせて製品を改良するとき、重要な注意事項があります。元となる製品の構成部品や製造方法の中に使えるものがあれば、できるだけ利用することです。そうすると、改良のための設計作業や生産準備作業がその分だけ不要になります。本当に新しい部分に技術者の戦力を集中投入するなら、生産性が向上するでしょう。

ある自動車メーカでは製品ごとに部品表を作り、部品コードも製品ごとに設定していました。したがって、部品が共通であることに気付きにくくなっています。下請けの部品メーカは部品仕様を眺めて、以前に受注した部品とほぼ同じであると気づき、試作品として提示します。自動車メーカは試作品が早くできたことを喜び、高い値段で買ってくれます。部品メーカとしては投資ゼロで、大きな利益を得られます。しかし、これで良いのでしょうか? 共通部品を扱うよう部品表管理エンジンBOMの改革を提案したのですが、受け付けられませんでした。その後経営が悪化し、外人の社長が就任すると、この部分は最初に改革されたようです。 しかし、BOMでは共通部品を扱えますが、用途・使用条件による部品構成や製造方法の相違は表現できません。

共通事項の統合管理と個別事項の個別管理を可能にする「統合工程部品表管理エンジン」”SPBOM”とFBOM

私たちは最初にBOMとその管理エンジンの改革に取り組みました。トヨタ自動車で言う「工程部品表」の抜本的改良版です。品目の製造プロセスを表現し、そのプロセスにおいて行う作業仕様を登録し、投入する品目(構成部品)を表現する方式です。通過工程毎に品目名を変える必要はありません。

さらに、品目の用途・使用条件に応じて作業仕様を選択する仕組みを追加しました。そうすることにより、共通の構成や共通の作業を統合管理します。用途・使用条件により異なる個別部分は個別管理します。ある用途・使用条件を指定しますと、共通部分と個別部分を重ね合わせて、用途・使用条件を実現する部品構成と製造方法を表す「工程部品表」を生成します。共通部分があり、用途・使用条件がことなる仕様の品目たちを併せて「品目群」と呼びます。詳しくは私たちが書いた「ものづくりマネジメントと情報技術」、(静岡学術出版、2104)をご覧ください。

製品の売り方を変えましょう

完成した多仕様の製品を売ることにすると商品カタログが分厚くなり、お客様はどれを選べばよいか迷い、本当に役立つものを見つけ出せない恐れがあります。お客様から多種類ある用途・使用条件の中で重要な事柄から順に聞いて、気に入る仕様を見つけていただきましょう。

それはお客様に商品の使い方や使用条件を学んでいただくことでもあります。大多数の商品には読めないほど小さな字で書かれた取扱説明書がついています。しかし、それは商品仕様を知っている技術者の視点で書いているため、読んでも意味を汲み取り難く、困ります。

お客様が販売員と相談しながら欲しいものを選ぶ「販売サービス」型のビジネス・モデルが可能です。そうできるように開発部門が統合工程部品表を用意すると、販売部門で顧客志向の価値創造が可能になります

製造サービス

用途・使用条件種類が多く、用途・使用条件値を組み合わせると、仕様が大変な数に分かれる製品があります。千葉県のスチールドア工場で社長が作る可能性がある仕様の数を計算したところ、190兆通りを超えていたそうです。実際にはお客様の要望を聞いて、部品構成や加工内容を定めて、加工しています。つまり、その工場は製造サービスしていると考えられます。

ある家具メーカでサイズ(高さ、幅、奥行き)をお客様の要望に合わせる必要があるけれど、生産管理パッケージでは特定の仕様毎に品番を発行しなければならないので、困っていました。統合工程部品表の話を聞いてそのメーカの方は面白いことに気付きました。CADを利用してお客様に標準品の図を見ていただき、お客様の要望に応じてサイズを変更すればよい、製造現場では決まった図面を見て加工すればよいはずだ、とのことです。つまり、加工サービスを製造部門で行うことができます。3次元プリンタやNCマシンと連動させるなら、本格的な製造サービスが可能になるでしょう。

お客様に適する製品を作るなら、顧客志向の価値創造が可能になるとともに、売れないものを作るムダもなくなるでしょう。開発部門は価値創造の原動力となります。

技術再利用

製品開発の生産性向上の鍵はすでに開発された技術を上手に再利用することです。新興国は先進国の技術を学び、応用して急速に力をつけています。外部で開発された技術は利用しないNIH(Not Invented Here)症状に陥っている企業が少なくありません。

和を重要視する日本のビジネス組織では部門内の連携は良くても、社内他部門との連携は苦手のようです。開発部門が設計した製品や部品を製造部門でコストや生産性を考慮して設計し直すので、新製品の発売が遅れる傾向があります。製造部門の技術知識を開発部門にフィードバックしても受け付けてもらえない傾向があります。アフターサービス部門の技術知識となると、重大な欠陥でない報告されないケースが多いようです。

お客様に安心して使っていただける製品を短期間で開発しようと思うなら、社内他部門で開発した技術知識を再利用することが望まれます。

私たちが開発した統合工程部品表管理エンジン“FBOM”は部品構成と製造方法を登録できる仕組みになっています。ところが、「価値創造研究会」の席で住宅産業の社員から鋭い指摘をいただきました。販売や導入設置、点検・修理などのプロセスも表現して欲しいとんことです。そうなると、設備・機械を運転するプロセスも表現すべきだとの声が上がりました。そこで“FBOM”を拡張し、品目ごとに任意の業務プロセスを登録できる仕組みを組み込みました。残念ながら、実務で使用して下さるお客様がまだありません。

技術再利用により、製品開発・改良の生産性を飛躍的に向上できるのではないでしょうか。

文責    手島 歩三

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