創刊号 “FBOM”と「なりゆきスケジューラ」開発の背景

技術データ管理支援協会は1998年7月に前身である「MASPコンソーシアム」として発足しました。以来、職場の問題解決を可能する道具(変革のイネーブラー)としてのIT整備に取り組んできました。20年間の研究開発のまとめとして、蓄積した技術を紹介します。

多品種少量生産・受注設計生産への取り組み

私たちの事業使命は「日本の製造業の長所を強化するための情報技術整備と普及」です。

日本の長所は顧客志向の改善・改良です。きめ細かにお客様の要望を満たす工夫を重ねて、日本の製造業は競争優位性を獲得してきました。しかし、その結果として管理の仕組みが複雑になり、間接作業量も増加して、価格競争力が低下しました。労務費の安い新興国や途上国に圧倒されて、業績が低下する企業が少なくありません。

ITを利用して、多品種少量生産でも対抗できる方策を模索し、私たちは統合工程部品表管理エンジン“FBOMと、生産スケジューラ「なりゆきスケジューラ」を用意しました。このソフトウエアの共同研究と開発にご協力くださった大手製造業B社に感謝申し上げます。

今回はこのソフトウエアを企画した背景を説明します。以下の書籍が参考になるでしょう。

1.David Halberstam,「覇者の驕り」、高橋伯夫訳、新潮社、1990

2.大野耐一「トヨタ生産方式」、ダイヤモンド社,1978

3.佐藤義信、「トヨタ経営の源流」、講談社文庫、1999

 

1.生産方式の歴史

生産方式の源流T型フォード

アダムスミスが分業による工業生産を提案して以来、製造業が急速に発達しました。ヘンリー・フォードとフレデリック・テイラーは自動車の大量生産を可能する生産方式(ベルトコンベアを用いる)を開発し、コストダウンに成功しました。大量に車が売れるので、利益を労働者に還元し、工場で働く人々もT型フォードを購入しました。そうなると、急速に自動車が社会に普及し、経済を牽引する基幹産業となりました。

後発のGMは使い方が異なる顧客に合わせて幾つかの車種を開発し、フォードの市場に食い込み、シェア第一位を獲得しました。フォードも同じ方式に切り替えたのですが、問題が多発しました。

部品生産方式

T型フォードだけ作る時代は、部品工場と組立工場は連動が容易でした。構成部品を一定の比率で作れば十分です。しかし、仕様が異なる製品を作ることになると、構成部品の所要量が異なり、欠品や余剰が頻発します。そこで、部品在庫管理が重要な役割を果たすことになりました。欠品を防ぐために見込み生産する。見込みを科学的に行うために、需要予測するなどの仕事が発生し、出回り始めた情報処理機器PCS(Punch Card System)や小型の電子計算機を利用しました。しかし、需要予測は狂うことが多く、困っていました。予測や在庫引き当て、欠品対応などの間接作業が多くなり、需要の伸びへの対処が難しくなりました。

ところで、ITを導入していない企業はまだこの次元に止まっています。

所要量計画方式:MRPシステム

1970年代にIBMのコンサルタントが画期的な生産管理方式を提案しました。生産品目には二つのタイプ「独立需要品目」と「従属需要品目」がある。前者の需要は何らかの方法で予測できるであろう、しかし、後者の需要は前者に従属して発生するので予測は役に立たない。前者の予測に基づいて、後者の所要量を計算すれば十分である、との見解です。製品需要を一定の期間(タイムバケットと呼ぶ)毎に予測しますと、従属需要品目の所要量もその期間毎に計算できます。異なる製品を作るとき、共通部品があれば合計することにより、まとめて生産できます。そのような考え方で「部品表」を用意し、コンピュータを用いて所要量計算する仕組み「MRPシステム」の構想が1970年代に、日本に紹介されました。部品を計画生産することにより需要予測作業が不要になり、在庫量が減り、在庫管理業務は大幅に軽減されるか、あるいは不要になります。

ところが、日本にはなかなか定着しません。製品仕様が多様化しており、類似品をまとめて需要予測することはできますが、個々の仕様についての予測は困難です。そこで、標準仕様に関して部品表を作り、仕様の異なる製品のための部品構成を取り扱えるよう、部品表管理エンジン“BOMP”を企業毎に改造しました。欠品問題は抜本的に解決できるはずだったのですが、・・・。

負荷調整の壁:タイムバケット

部品工場の生産能力は有限です。所要量計画を策定するとき、生産能力を考慮して部品生産納期を計算することは不可能です。つまり、生産量が決まらないと、負荷を計算できません。所要量計算を終わった後で負荷調整するとき、タイムバケットの枠を超えて生産時期を定めると問題が起きます。部品の生産時期を早めると、子部品がまだできていないので、実行不可能です。生産時期を遅くすると、親品目の生産に間に合いません。

所要量計画と負荷調整はトレードオフの関係があり、製品生産計画を何度立て直しても、うまくいきません。そこで、生産スケジューリングが必要であると多くの人が認めました。しかし、生産スケジューリング、特に負荷調整にはかなり高度の計算処理が必要です。数学的には非線形・離散型の線形計画法が有効と考えられます。しかし当時のコンピュータでは容量と性能が全く不足し、実現は不可能でした。

MRPシステムはその後、製造業用ERPパッケージに中核部分として組み込まれ、現在に至っています。

トヨタ生産方式

トヨタ自動車の創業者である豊田章一郎氏は自動車生産に取り組むとき部品構成とその作り方を表現する「基準工程表」(別名工程部品表)を必ず作成し、開発も生産も基準工程部品表を参照して行うよう、習慣づけたそうです。大野耐一氏は車の組立ラインと部品工場の生産活動を同期させるトヨタ生産方式を開発しました。

「車両組立平準化計画」(スケジュール)を策定し、その実行に必要な部品について「3ヶ月資材調達計画(内容は所要量計算とほぼ同じだそうです)」を策定して部品工場に開示します。部品工場では「仕掛けかんばん」を発行して部品を作り、「引取りかんばん」が来ると納品するやり方で、組立ラインと周回遅れですが、同期生産します。この方式は類似品の繰り返し生産が大前提となっています。個別受注生産には適しません。

E.M.ゴールドラットの「制約条件の理論」

ゴールドラットはトヨタ生産システムを深く研究し、1980年代に改革案を提示しました。当時のトヨタ生産方式では「自動車残酷工場」と評されるほど、働く人々の時間的余裕を奪います。部品工場ではいつ来るか分からない「かんばん」を待機しなければなりません。ゴールドラットはボトルネック工程をフル活用する生産スケジュールを策定し、余裕時間を制御するやり方で、製品生産量を増やす生産方式を提唱しました。個別受注生産でも、「かんばん」なしのJIT生産が可能です。1980年代末から1990年代に、米国の製造業を復活させた男として、雑誌フォーチュンの表紙に写真が掲載されました。

しかし、多仕様製品を作る日本の製造業では、工程部品表のデータ量が多く、作成途中で諦める企業が続出しました。仕様が異なると品目コードを発番し、データを作成しなければなりません。BOMジェネレータを作りたいと熱望した関西の大企業の社長は失敗し、焦り、標準品販売を営業マンに強制して反発され、退陣を余儀なくされました。

 

2.MASPの取り組み

統合工程部品表管理エンジン”SPBOM”、FBOMの研究・開発

製品を作ろうと思うなら、入手可能な原材料・部品を用いる量と調達リードタイムを計算するための基準工程表が必須です。しかし、製品や部品が多仕様化しますと、データ作成や更新が困難です。特に設計変更の時にミスが起きると、欠陥品を作りかねません。

そこで、類似品を集めて「品目群」とし、共通部分は統合管理する、仕様毎の個別部分は個別管理する、その上で両者を重ね合わせて特定仕様の製品の工程部品表を生成する、「統合工程部品表」とその管理エンジンを開発しました。株式会社エクサ殿と共同特許を取り、エクサは”SPBOM”を、MASPは中小企業用の“FBOM”を提供しています。住宅産業大手のLIXIL社では品目群毎のデータ量が従来よりも、1/100~1/10,000になったそうです。数千万種類あった製品が数千種類になれば、生産管理業務が楽になるでしょう。

複合型所要量計画ソフト供給計画エージェントの研究開発

MRPシステムは規格品大量生産に適しています。日本の個別受注生産型工場では製品生産オーダ毎に個別に部品を調達手配する「製番管理方式」の所要量計算を採用しています。MASPは製品の生産オーダ毎に統合工程部品表をコピーし、加工調達リードタイムと所要量を計算して紐付けする、製番管理方式の供給計画を策定するソフトウエアを用意しました。ただし、ある仕様の製品や共通部品を大量生産すればよいときは、その品目についてタイムバケット方式の所要量計算を行わせることができます。製番とMRPがシームレスに繋がる、複合生産方式が可能です。

製番管理方式では必要な「もの」を、必要なとき、必要なだけ生産するよう計画します。ゴールドラットはこの方式を採用し、在庫を持たない生産方式と呼んでいます。その利点については次号以下で説明します。

スケジューリングする前に、「もの」の供給を計画し、「もの」の確約ができる(Available To Promise)ようにすることが供給計画の目的です。

生産スケジュール策定支援ソフト「なりゆきシミュレータ」

製品生産計画を策定し、製品生産オーダを発行したとき、納期通りに生産できるかどうか、大いに疑問があります。負荷調整しないと、何が、いつ、どれだけ出来上がるか、決めることができません。個別受注生産では非線形・離散型線形計画法のデータを作る時間的余裕がありません。仕様個別受注設計生産では、仕様未定で先行手配しなければならないので、もっと困ります。設計技術者の負荷が大きくなり、生産性が低下します。最適計画を立てたのだからスケジュール通りに働けと生産現場の方々に強制すると、遅れやチョコ停が起きたとき、現場の皆さんは当惑します。何よりも、心理的な負担が大きくなり、残酷工場に陥りかねません。

多くの工場で納期見積り依頼が来ると、大勢の人が集まり、議論し、最後は経験と勘と度胸に頼って納期回答します。無理な納期であれば、過残業になる恐れがあります。納期遅れになると信用を失いかねません。奇妙なことに、納期に余裕を見込んで注文されたお客様は後回しにされ、無理な納期の注文への対応に生産現場は追われる傾向があります。納期に余裕を持たせると、工場が暇になる恐れがあります。さらに、納期が長いとお客様が他社に行ってしまうでしょう。

私たちは最適スケジュールを策定するよりも、客観的に納期を見通すことが重要と考えました。

そこで、実在する設備や人など工場の現実を写し取り、コンピュータ内に仮想工場を用意します。供給計画エージェントが生成した製番管理型の統合工程部品表付きの供給計画データ(オーダネットワークと呼びます)を仮想工場に模擬実行させる「なりゆきシミュレータ」を用意しました。工場カレンダや設備稼働計画、勤務予定表など見て、空いている設備や人があれば作業を割り当てて、前詰めで生産活動を模擬実行します。その結果として、いつ頃、どの工程が混み、いつ頃、どの製品がどれだけ出来上がるか、生産スケジュールとして見通しを付けることができます。納期遅れが起きそうであれば、残業や応援を計画して再スケジュールしましょう。余裕のある工程があるなら、そこを埋めるよう注文を獲って欲しいと、営業部門にお願いしましょう。

工場の現場には設備や作業者を上手に活用するノウハウを持った人がいます。スケジュールを開示して、これよりも上手に働いて、注文をこなすことを歓迎しましょう。いつ頃、暇ができると営業部門に伝えて、よりたくさんの注文を獲り込むよう、働きかけましょう。皆で力を合わせて売り上げを伸ばし、業績が向上するなら、皆さんは元気が出るでしょう。

 

このほかの道具について

現在、“FBOM”と「なりゆきスケジューラ」(供給計画エージェント、「なりゆきシミュレータ」から成る)を職業大(厚生労働省の教育機関)で教育と研究のために使っていただいています。仕様未定でも共通部分を先行手配し、n日までに仕様のこの部分を決めて下さいとお客様に働きかける仕組みについて、研究が進み、実用可能であることを生産管理学会で発表されました。また、従来型ですが、進度管理や購買・在庫管理の道具が付いており、中小企業ではそのまま使用できるケースがあります。

統合工程部品表にデータ作成は設計開発部門の仕事です。職業大では学生たちがドローンを設計し、そのデータ作成に取り組んでいます。設計作業を容易にするために統合工程部品表作成支援ツール“FBOM”エディタを研究・開発・実用・改良しています。希望する企業があれば、設計者の負担軽減のための道具としてお試しいただけるそうです。ビジネスの現場からのフィードバックを期待しています。

この次は、“FBOM”「なりゆきスケジューラ」と3次元CAD/3次元プリンタ、IOT(自動機械を含む)との結合に取り組む予定です。共同研究・開発のスポンサーを求めています。なお、生産活動の制御に関して、「かんばん」なしのJIT生産が可能な方式を持っています。これについて次号以下で紹介します。

 

創刊号のおわりに

いま製造業にかつてない激震が訪れています。自動車の動力源としてのガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンが禁止され、自動車を家電メーカでも製造できる時代に変わろうとしています。そうなると、生産方式も抜本的に変わらなければなりません。

1990年代にそのことを予想した自動車メーカや精密工業の人たちが集まり、新生産方式を研究しました。その中の主要人物が中心となってMASPコンソーシアムを編成・発足させました。いまその人たちは高齢化し、活動が難しくなっています。しかし、次世代の生産方式に利用できる道具の主要部分は出来上がり、実用段階に入っています。次世代を担う方々の参画を歓迎します。

文責 手島歩三

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柿谷常彰 より:

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