第4号 「売れるものづくり」

現在の製造ビジネスは供給過剰。生産能力過剰に陥っています。言い換えると、需要の不足時代です。ライバルが同業他社であるとは限りません。目につきにくいですが、異業種間競争が激しくなっています。安ければ売れる時代でもなくなっています。今回は、ものづくりに携わる企業が持続的発展を図るための方策の考え方について説明します。

良いものを作れば売れる時代の終わりに

硬直化した日本のものづくり

2010年代に入って日本のものづくり経営は硬直化しているように感じます。IOTやビッグデータ、AIなど製造ビジネスに関わる新技術が現れると「ブーム」として飛びつきますが、ものづくりの考え方は以前のままで、小手先の技術導入になっています。IOTの背後にある第4次産業革命に関してはあまり考えていないように見えます。ドイツのインダストリー4.0を追いかけると、ますます差が開き、地盤沈下を招くでしょう。

規格品大量生産を支えた自動化と省力、合理化と標準化による生産性向上は限界に達しています。世界の産業界は異質な方向に進んでいます。例えば、F.コトラーは「現代は需要の不足時代である」と指摘しています。(フィリップ・コトラー、「コトラーのマーケティング・コンセプト」、恩蔵直人監訳、大川修二訳、東洋経済新聞社、2003)需要創造を目指してITを活用する必要があります。同様に、P.F.ドラッカーは「日本は意思疎通という意味の『コミュニケーション』のためにITを使いなさい。『未来の』ためにITを使いなさい」と勧告しています。(P.F.ドラッカー、「テクノロジストの条件」、上田惇生訳、ダイヤモンド社、2005)世界中のビジネス組織やお客様と取引するだけでなく、上手に同期・連携するものづくりについて考える必要があります。そのような視点でビッグデータやIOT、AIをどう活用するか考え直す必要があります。これらは道具に過ぎません。

規格品大量生産を超えるものづくりとして、ドイツは「マス・カスタマイゼーション」を目指しています。ものづくりの下流工程では多品種少量生産ですが、遡ると次第に量産色が濃くなり、最上流の部品は大量生産です。さらにその上流の素材産業は新素材開発で多岐に分かれています。規格品大量生産では対処できないビジネス・モデルを追及しています。

顧客にとって使いやすい製品

ものづくりの原点に立ち返りましょう。良いものとはどのような「もの」でしょうか? 良いとはどのような「こと」でしょうか? 製品仕様通りにできていれば、良い製品と言えるでしょうか?製品は完成しているように見えても、お客様にとって足りないところがたくさん残っています。

製品の使い方はお客様が決めることだと放置していませんか? お客様が使い方を間違えると、事故が起きかねません。お客様の用途や使い方を意識して製品仕様を決めているでしょうか? お客様は適切な方法で製品を使っているでしょうか?

お客様にとって自然な使い方を考え、その使い方に適する仕様を定めることが望まれます。製品仕様を先に決めて、その使い方を「取り扱い説明書」に記載して済ませるのでは売れるはずがありません。使い易さの中には掃除・手入れのしやすさ、収納し易さ、取り出しやすさ、故障の見つけやすさ、修理し易さなども含まれます。お客様が自社製品を長期間にわたって使って下さることを目指して製品仕様を決めましょう。

製品仕様を決めるとき、お客様の用途と使用条件を考慮することが肝要です。

顧客にとって買いやすい売り方と作り方

お客様は多様です。お客様の用途・使用条件を考慮しますと、同種の製品でも仕様が異なる製品が沢山出てきます。どうすれば売れるでしょうか? 全仕様の製品を店頭に並べると、置場がなくなるでしょう。ある家具メーカの仕様数は数千万件に達していました。カタログを印刷すると重くて持ち運べないでしょう。お客様もどれが自分に合うかページをめくる時間がなく、選択に迷います。

ところが、2017年11月に画期的な売り方が報道されました。店頭には衣類の品種ごとにサンプル製品を置き、店を訪れたお客様が選んだ製品のサイズや色柄などを、ITを用いて指定すると、数日後に完成品が納品される仕組みです。工場では既製品を作るのでなく、イージーオーダ型で受注生産します。在庫過剰や値崩れの恐れがありません。

売り易いように製品仕様を設けること、売り易いように作ること、この難題を解決することがいま、日本の製造業に求められています。

用途を開発する、使用条件を見直す

斬新な新製品のおアディアが出てきたとき、お客様の用途を考えることが基本です。売れ行きが止まった製品でも、新しい用途を見つけると沢山のお客様が存在していることに気付きます。マーケティング理論で言うと、「用途開発」は「市場開発」と深く関わっています。

お客様が製品を使う「場」に目を向けましょう。取扱説明書に記載した場でお客様が製品を使うとは限りません。製品を使用する幾つかの「場」の中で、お客様が一番多い「場」について適切な使い方ができるよう製品仕様を決めるなら、好評を得るでしょう。別の「場」に適する仕様を用意すると、他のお客様を取り込めるでしょう。「使用条件の開発」は「市場深耕」と深く関わっています。

ある企業は官需に依存して経営していました。顧客の信用度が高く、安心して取引できます。しかし、注文は期初に集中し、納品は期末に集中します。前半は工場が暇なので部品の見込み生産で過ごし、後半は納期に追われ、ムリな納期に苦しみます。入札競争に敗れると1年間は経営不振に陥ります。そこで、思い切って民需にも対応することにしました。製品仕様は多様化しましたが、工場の稼働率が安定し、業績に関する不安は大幅に軽減されたようです。

納期を確約する

顧客志向で製品を多仕様化しますと、困る問題がでてきます。標準仕様の在庫製品を売る場合は「即納」、在庫がない場合は標準生産リードタイム+輸送時間を考慮すれば納期回答できます。ところが、多仕様化すると、沢山の製品在庫を保管する場所がありません。在庫切れが頻発し、いつ生産に取り掛かってくれるか、「負荷状況」を調べないと納期回答できません。生産現場に出かけてみなければ負荷状況がわからない工場ですと、納期回答に時間が掛かり、お客様は他の店に行ってしまうでしょう。

売り方と作り方の改革だけでなく、生産管理の仕組みも抜本的に改革する必要があります。

P.F.ドラッカーが「未来のためにITを使いなさい」と述べたことの意味を考えてみましょう。お客様にとって製品が必要な時期があり、工場の能力と負荷状況によって製品を作り、納品できる時期があります。前者の見積もりは困難ですが、後者はできるはずですし、できなければ困ってしまいます。

いま工場ではどの製品をいつまでに作るために、どの設備を使っており、そこに作業者がどのように配置されているか、現地・現物の状況に立脚して、来店されたお客様のためにいつ製品を納められるか、「未来」を見通す必要があります。経験と勘と度胸で納期回答できるのは、経営規模が小さい場合の話です。経営規模が小さくても回答した納期にムリやムダがあり、納期遅れに悩むとか、暇を持て余す事態がしばしば起きます。

未来を見通すためにITを利用しましょう。納期を見通すためのスケジューリング技術が役立ちます。

現在スケジューリング関連の学会で発表されるスケジューリング技術では「納期」を制約条件の一つとして扱います。生産資源(設備・機械や技術・技能者など)の保有量も制約条件扱いです。したがって、未来(納期)を固定して「全体最適」のスケジュールを策定しています。このアプローチにはかなり苦しい問題があります。納期をどうすれば決められるでしょうか? 生産資源に関していうと必要量が分れば、残業や応援、外注などの工夫も可能です。制約条件とすることには無理があります。

多仕様化時代に求められているスケジューリング技術は異質です。引き合いや受注の状況に応じて、生産資源をどれだけ用意すればよいか、納期をいつにすればよいか考えるためにスケジュールを策定する必要があります。

お客様が製品仕様を決められるようガイドする

お客様が自分の求める仕様を決められるよう、ガイドすることが肝要です。それは売り手の責任や工夫の課題ではなく、製品を設計する人が考慮すべき事柄に属します。適切な順序でお客様の要望を聞いて行きますと、お客様は自分が何を求めているか、明確に知るでしょう。そうであれば、お客様が責任を持って使い方を考えるでしょう。選んだ後で返品やクレームになる危険性も大幅に低下します。

本来の取扱説明書はこのような視点で記述すべきではないでしょうか。ガイドの一部分は製品パッケージのラベルにも記載し、製品メーカから見て好ましいお客様を獲得することをお勧めします。

ところで、ある種の製品に関してはお客様が仕様の一部分を決めかねるけれども、使用時期を考慮すると先行手配しなければ間に合わなくなる事態が起きます。そのとき、仕様の一部分が未定でも共通の材料や部品、生産資源を予約手配する仕組みを構築することが望まれます。「仕様未定での先行手配」が必要な製品の典型は「プレハブ住宅」です。このビジネスでは製造の最終工程は建設・施工です。壁紙の色柄が決まらなくても、構造部は先行生産できます。そのとき、「壁紙の色柄はこの時期に決めて下さい」と「仕様決定スケジュール」もお役様に提示する必要があります。

スケジューリング技術に関しては、次の機会に少し詳しく説明します。

文責    手島 歩三

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