第5号 「質の良い注文を獲得するために」

2017年末現在、日産自動車、神戸製鋼や東レなど名だたる大企業が品質保証に関して問題を起こしています。売れ行きが伸び、増産すると人手不足になり、納期に追われて品質検査を手抜きしたことが原因とされています。

多品種少量生産、受注生産企業では無理な納期で注文を取り、残業しても追いつかない事態に陥りがちです。引き合いが来たとき、ムリとは思わないで納期設定しますが、いざ取り組んでみると、大変な事態になっていると気付き、冷や汗を掻きかねません。残業が続くと、作業者たちが疲れて、生産性と品質が低下して、ますます事態は悪くなって行きます。

 

「引き合い対応」で適正な利益を生み出そう

中小・零細企業では受注量の波が大きく、工場を遊ばせないために、何とかして注文を取ろうと努力します。しかし、注文を取った後で仕事にムリやムラが生じ、生産性と品質だけでなく、利益も低下します。

このような問題の発生を防ぐ手立てはないものでしょうか?

多くの日本製造業は引き合いに対する「納期見積」を軽視しています。値引き交渉のために相見積もりするお客様が多く、取れるかどうか分からない引き合いに手間暇が掛かるので、うんざりします。取れる確率が高い引き合いに対して納期を見積もろうとすると、工場の状況を掴めないので、工場管理者に相談します。管理者は「本来の業務」に追われており、経験と勘と度胸に頼って納期回答します。待ちかねたお客様が他社に引き合いを出すと、工場の管理者は「無駄な時間を取られた」と憤慨します。

もしも、現在の生産進捗や負荷状況が正確に分かり、引き合いが来たお客に対応したら、いつ製品が出来上がるか、ほかの注文にどのような影響が出るか、成り行きが分かるなら、素早く、ムリのない納期を回答できるでしょう。受注状況により、設備や作業者のある部分には余裕があり、ほかの部分は埋まっています。空いている設備や作業者に仕事が回るように注文を取るなら、収入が増えます。無理な残業にならないように受注納期を決めるなら、生産性と品質が向上します。

これからの工場経営では「納期回答」が利益と品質を併せて向上させる鍵になるでしょう。

 

引き合い対応のための生産スケジューリング

当協会は引き合い対応に利用できるスケジューラを用意しています。工場の設備や作業者、加工作業に掛かる時間などの基礎データを用意するにはある程度の手間が掛かりますが、一度作ってしまうと、比較的容易にスケジューリングできます。

このスケジューラでは引き合いや注文の納期から逆算して原材料・素材・購入部品などの調達・供給の可能性を確認します。生産する部品やユニットの在庫も引き当て対象にできます。在庫品があればそれを引き当てて、その分だけ納期短縮が可能になるでしょう。

続いて、引き当てた(手に入る時期が決まった)原材料・素材・部品・中間製品の加工作業を実在する職場の設備・機械や作業者に割り当て、シミュレーション(模擬実行)します。いつ、どの工程で誰が、どの注文のために、どの品目を、どれだけ加工するか、上流工程から順に工場全体が活動する様子を一種の「スケジュール」としてアウトプットします。いつ頃、どの工程が混むか、誰が手空きになるか、スケジュールを見れば分かります。

これは、注文や引き合いに応じて工場が働く様子を(基礎データに基づいて)推測することにほかなりません。設備や作業者が空いたら、すぐに次の作業を割り当てますので、前詰め型のスケジュールが出てきます。したがって、製品の完成予定日にはムリがありません。若干の余裕を見込んで納期回答すれば、冷や汗を掻く事態は起きにくいでしょう。カレンダー(勤務スケジュール)を参照して模擬実行しますので、ムリな残業にはなりません。設備の定期点検や修理の予定もカレンダーに組み込んでおけば、故障や劣化も防げるでしょう。

 

なりゆきを推測する

私たちのスケジューラは最近流行の「全体最適化」はしません。単に成り行きをコンピュータで推測するだけです。したがって、スケジューラの名前は「なりゆきスケジューラ」です。これは特別な技術ではなく、1960年代に工学部の学生たちがやっていた「ハンド・シミュレーション」をコンピュータに置き換えただけの仕組みです。

幼稚なスケジューラですので、生産現場の皆さんに「スケジュール通り働いて下さい」などと、お願いするつもりはありません。参考になればと願うだけです。

 

職場のノウハウを活用していただく

スケジュールを見ると、生産現場の皆さんはもっと良い順序で働けば、納期が短くなるとか、生産性が上がるはずだと気付くでしょう。段取り替えの共通性を考慮するとか、作業の順序(優先順位)を入れ替えて次工程の手空き時間を減らす、技能に応じて作業分担を変更するなどの工夫をすると、スケジュールよりも良い結果が出るでしょう。

そのような工夫をしていただく参考データを作るために「なりゆきスケジューラ」を利用して下さい。

「なりゆきスケジューラ」は以前に紹介した統合工程部品表を見て作動します。基礎データをこれに盛り込んで下さい。そうすれば自由に再利用できます。

設備や作業方法のカイゼンに取り組む企業では、しばしば段取り時間や加工時間の基準値が変わります。そのときは統合工程部品表のデータを変更して下さい。カイゼン結果がどのように納期短縮や、稼動率向上に結びつくか、シミュレーションによって確かめることができます。カイゼンの案が出た時点でシミュレーションすれば、どの程度効果が出るか、確かめて、投資することもできるでしょう。

 

職場の力を引き出す

「なりゆきスケジューラ」を使っている企業はまだそれほど多くありません。僅かな事例ですが紹介します。

F社は昨年(2016年)、建築用金属加工製品の工場で「なりゆきスケジューラ」を使い始めました。従業員は約20名です。事務担当の女性は引き合いが来ると以前の注文と併せて「なりゆきスケジューラ」を利用してスケジュールを眺め、納期回答します。工場の現場にあるタブレット端末ではどのような注文が来て、どの職場でどのような作業を行うことになるか、眺められます。職場の皆さんは作業順序を変えるとか、作業分担を見直すなどの工夫をして、スケジュールよりも上手に働こうと工夫します。

以前は、社長が注文の優先順位を考え、納期を決めるために工場に毎日通っていました。スケジューリングが定着すると、社長の負担は軽減されたそうです。事務担当の女性から毎週金曜日にやっていた「工程会議」を廃止しましょうとの提案が出て、皆が賛同したそうです。

大手製造業B社は個別受注設計生産の金型工場で「なりゆきスケジューラ」を導入しました。初めての導入でしたので、たいへん苦労されたそうです。情報システム部門の方の話では、2年間に700件を超える変更要求が出たとのことです。それを全て消化して、気付くと、納期が大幅に短縮できていました。極端なケースでは1/3になったとのことです。

変更要求の内容を聞いたところ、「制御方法」に関わる変更が大半だったそうです。どうやら、B社では職場の制御ノウハウを「なりゆきスケジューラ」に組み込んだと思われます。「なりゆきスケジューラ」は統合工程部品表を参照して作動する仕組みになっています。そこで、統合工程部品表に制御に関するノウハウを登録し、改善改良を重ねたようです。情報システム部門は2年間に700件、つまり毎日1件程度の変更要求を消化し、職場のカイゼン活動を支援したことになります。

納期短縮は「なりゆきスケジューラ」のせいではなく、職場の皆さんと情報システム部門の協働によるカイゼンの積み重ねの成果です。

 

未来の可能性を探る

「なりゆきスケジューラ」は納期や生産資源の稼働予定を「制約条件」とするスケジューラとは異質です。納期や生産資源の稼働予定を考えるための参考情報を提供する道具です。

高度な数式や理論は持っていません。職場のノウハウを教え込めば、次第に、よりましなスケジュールを立てる道具に進化するでしょう。

進化の方向を探り、好ましい未来を招き寄せる工夫を可能にする道具として統合工程部品表管理エンジン“FBOM”と「なりゆきスケジューラ」を利用していただけますと幸いです。

文責    手島 歩三

トラックバック・ピンバックはありません

ご自分のサイトからトラックバックを送ることができます。

コメントをどうぞ