連載DX時代の生産情報システム 第1回「知的生産性向上を図る」

生産性の差はITの使い方の相違が原因だ

2020年後半現在、日本社会は経済不況に悩んでいる。新型コロナウイルスの蔓延だけが原因ではない。欧米や新興国に比べると生産性が低く、商品やサービスの価格競争力が低下していることが最大の原因だ。その背後ではITの使い方が欧米や新興国とは大きく異なっている。ITを利用するとき経営トップから中間管理職、さらには事務スタッフや現場で働く人たちまで、IT先進国は自分でシステムを作ろうとする。

日本は業務部門毎に「要求」を述べ、後は専門家に任せてシステムを作らせようとする。ITの利用を計画するとき「自動化と省力」を目指し、システム化する。「システムに合わせて働くこと」を組織員に要請する。しばらく経つとシステムの内容を知る人が少なくなり、その改良や変更が困難になる。部門毎の「要求」には食い違いが避けられず、システム間の繋がりが悪く、業務連携に手間と時間がかかる。行政システムでは同じことをいくつもの窓口に行かないと処理できない。

生産性が低下する重大な原因は「思考の中断」と「業務連携の中断」だ。業務担当者個人の生産性が重大な生産性格差の原因ではない。

知的生産性向上を目指してITを利用しよう

日本でも「情報共有が重要だ」と多くの人が認識している。P. F. ドラッカーは「日本は意思疎通という意味のコミュニケーションのためにITを使いなさい」と最後の著書「テクノロジストの条件」のエピローグで勧告している。「情報共有」の最大の目的は「意思疎通の支援」だ。情報共有しないために人々の事実認識が食違い、協力して行動することが苦手になる。上からの命令や指示を待ち、自己責任で行動する能力が欠けてくる。

米軍の将校から聞いた話だが、パイロットは一旦飛び立つと指示を待つのではやられる。必要であれば欲しい情報を取りに行き、自らの判断で行動するとのことだ。組織がそのような考え方でできているらしい。「かんばん」は危ない。JIT生産の方策としては有効だが、サプライヤ側では「かんばん」の到着を待ち、無駄とムラが生じがちだ。他の会社との取引と重なると無理が起きてしまう。「かんばん」発行の源泉となる情報を共有できるなら、サプライヤ側の働き方改革に役立つだろう。

思考の中断を防ぐために、「情報」を供給することも肝要だ。「マニュアル通りに働け」と命令するよりも、働く人のタイミングに合わせて必要な情報を提供するほうがよい。「人にやさしいシステム」を構築すべきだ。知的生産性向上の方策を軸に、このシリーズでは解説する予定である。

「ビジネス情報」のシステム

ITは道具であり、それを使うこと自体は目的でない(IT業者にとってはITを使わせることが目的であろうけれど・・・)。本来のITはInformation(情報)に関する技術だ。情報が存在しないなら、「情報」技術の存在意義はない。

ビジネスに関わる情報を適切に設計し、適切に取り扱うことが肝要だ。その道具としてITは素晴らしい可能性を備えている。情報の設計が不十分であれば、ITをどのように駆使しても、満足いく結果をもたらすことはできない。

ビジネスにまつわる情報体系を描くことが極めて望ましい。情報の源泉はビジネス活動の現場の現物だ。現物を(何らかの方法で)観察して、「もの」データを採取しよう。製造ビジネスでは「もの」や人に働きかけて「もの」の状態を変化させる。そのようなビジネス活動(「こと」)の事実を「こと」データとして採取しよう。例えば、商品を顧客に販売すると、商品の所有権が顧客に移動し、その代わりに代金の所有権が売り手に移動する。「もの」データと「こと」データの間には関係がある。つまり、ビジネスの事実を捉える情報体系はビジネスの関心対象物の体系や。ビジネス活動の体系とほぼ一致する。

事務処理を自動化するまえに、事務処理で扱う情報の意味を見直すほうがよい。ビジネスの現場で取り扱う「もの」や行う「こと」の種類はそれほど多くもなく、複雑でもない。しかし、事務手続きやソフトウェアの内容は複雑で分かりにくい。そこで取り扱う「情報」は多種多様で、どうつながっているか調べられないほどである。情報体系を簡素化すれば、それを取り扱う情報処理(事務処理を含む)も簡素化できる。

DXの核心は情報で組織を繋ぐことだ

日本のビジネス組織は業務部門毎に要求を述べ、専門家任せでシステムを構築してきた。そのために部門の壁を越える(部門間に共通の)情報に気付かず、異なるデータ仕様を与え、異なるコード体系を設けている事態が沢山ある。そのために情報がつながらない。情報がつながらないために部門の壁を越える業務連携が困難になっている。官のシステムでは「他部門の情報を参照したい場合は稟議書を発行しなければならない」と窓口の担当者が嘆く。ディジタル庁で是非この問題を解決していただきたい。

AIやIoTを導入しても、特定作業の自動化や、特定機器の自動化に留まるなら、ビジネス全体にもたらす効果はあまり上昇しない。日本はIT投資の割に、経営効果が上がっていないとの統計データがある。繋ぐことを忘れて自動化、省力してしまったことが原因である。本来の合理化では、ビジネス活動の連携を企画・設計しなければならなかった。

ITに関する国際標準は、日本の多くの人が考える「標準化」とは異質だ。ITは大変な勢いで発達し続けている。したがって、一定の枠にはめるような標準化はすぐに役に立たなくなる。したがって、国際標準は技術要素間の繋がり方すなわち「インターフェースとプロトコル」に関する共通規約として定められる。個別の技術内容には介入しない。技術を繋ぐための標準だ。

組織を繋ぐために、働く人たちを繋ぐために「情報」とITを使って欲しい。

主体性を持って働くことによる知的生産性向上

製造ビジネス情報システムは働く人々の知的作業環境だ。各個人が主体性を持って働けること、自分の働きに満足できること、つまり自己実現を目指して働けるようにするために、ビジネス情報システムを整備すべきだ。

命令されて、指示された通りに動作し、何らかの成果物をもたらすような働き方では生産性が低い。個人の能力を管理者、監督者の枠の中に押し込めてしまう。働く人が目標に納得し、自分の頭で考え、主体性を持って働くとき、生産性が向上する。知的労働だけでなく、肉体労働の場合でも、その生産性向上効果はかなり高い。

 働く人たちが主体性を持てるように情報を提供し、情報を採取し、情報処理するために基幹系情報システムを整備しよう。ビジネスの事実を即刻、あるがままに捉えることが肝要だ。その情報は業務連携に役立つ。基幹系システムで事実を的確に捉えるなら、データ分析や、AI(深層学習)に役立つ。IoTは基幹系システムと繋ぐことにより、飛躍的に威力を発揮する。ドイツが目指す第4次産業革命の中心技術はマス・カスタマイゼーションとIoTだ。日本型マス・カスタマイゼーションについて、稿を改めて解説する予定である。

文責 手島歩三 ―以上―

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