連載DX時代の生産情報システム 第2回「価値創造を図る」

忘れられた生産向上の方向

 少なからぬ日本企業が生産性向上の方向を間違えている。自動化し、省力、省人すれば生産性が向上すると思い込んでいる。しかし、それだけでは危ない。省力、省人の結果として働く人は仕事を失い、その人たちを支える社会的コストが増加する。コストダウンに成功すると、価格競争力が上がり、しばらくの間は業績が向上する。しかし、ライバルも生産性向上を図るので、価格競争は際限なく続く。量産効果が上がると、市場には「もの」が溢れ、価格が低下して、省力・省人の効果は吹き飛んでしまう。結果として従業員が苦しむために省力・省人に取り組んでいるように見える。限界に達した事業は途上国に移転し、国内の空洞化が進む。社会が貧しくなって行く原因の一つだ。

ところが、省力・省人とは異なる生産性向上の方向がある。それは「価値創造」だ。

生産性の意味を見直す

生産性を[付加価値÷投資]で測定することに異論はないだろう。省力、省人は投資額の削減に寄与し、生産性を高める。しかし付加価値を[売上高―投資]で測定するのは危ない。価格競争により、売上高は減少する。大量生産すると、過剰供給になり、価格破壊と資源の無駄遣い、環境破壊を招く。

本来の付加価値増加は社会に富をもたらす。顧客は価値に対して代価を支払う。製品に対して代価を支払うのではない。付加価値増大を図ることが肝要だ。生産性評価の分母を減らすことには限界がある。分子のほうは増加を図っても天上なしだ。付加価値増加を目指して生産性向上を図るなら社会は豊かになるだろう。ネアカな生産性向上を目指すと組織も明るくなる。

組織が持つ技術、技能を活用する用途開発

日本の現場には優れた技術、技能を身に付けた人がおり、それを支える設備・機械がある。これらを知的財産と捉えることにしよう。これまで作ってきた製品や部品の仕様や、生産技術の中にも付加価値増加に役立つに知的財産がある。人減らしや設備削減を考える前に、知的財産を活用して価値創造、価値増大を図ることをお勧めする。ちょっとした発想転換が必要だ。

知的財産をどのようなお客様の、どのような用途に適用するか、「用途」を探ろう。よく知られた話だが、エスキモーに冷蔵庫を売り込んだセールスマンがいる。冷蔵庫の新しい用途「食料を凍らないよう保存する」を発見したことで、「新市場」を開拓できた。用途開発は市場開発につながる。

同じ用途あるいは、同じ市場で売り上を伸ばす方策がある。2020年後半のいま、中国で「新しいトイレ」が注目されているそうだ。新型コロナウイルス蔓延のため、病院は混雑して、患者たちは長時間待たされる。医師や看護婦は手が足りず、診察に十分な時間を掛けられない。日本で開発されたトイレをIoT化した。座ると体脂肪率を測定し、尿を分析して、データを表示する。医師医療関係者にとって大幅な負担軽減だ。患者たちも検査時間が短くなり、検査待ち時間も短縮される。これはトイレの「使用条件」を考えて生まれた新製品だ。製造コストは高くなるが、それを遥かに超える付加価値があり、顧客が歓迎する。日本にも逆輸入されるに違いない。

人や「もの」、技術・技能がもたらす価値を見直す

「ものづくり」の現場に蓄積された知的財産(技術・技能、設備・機械など)の用途を考え、その価値を見直そう。「もの」や人、機械、工具などは何らかの働き、つまり「機能」あるいは「作用」を持っている。「機能」を言葉で表現しよう。働きかける対象物あるいは情報を「目的語」とし、作用を「動詞」とすると、「xxをyyする」という風な、働きを表す短い文章が出来上がる。次に、その機能に期待する事柄を「形容詞」または「副詞」として書き加えよう。例えば「zzとなるようにxxをyyする」などの。短文が出来上がる。「zzとなるように」の部分を「価値表現」と呼ぶ。

機能表現だけでは重要性を理解されにくいが、価値表現が加わると、「なるほどそういう意味だったのか」と「もの」や人の価値に気付いてもらえるだろう。この言葉遣いを「システミック表現」と呼ぶ。この言葉遣いは人様を傷つけない、前向きの言葉遣いだ。前向きの言葉使いで話し合うことにしよう。

用途と価値の発掘(創造あるいは確認)

職場にある知的財産を「システミック表現」してカードに記入し、これらを使う目的を考え、それもまた「システミック表現」しよう。使う人の立場に立って考えることが肝要だ。有望なお客様の要望を満たすために、さらに深く上位目的(複数ある場合が多い)を考えてみよう。

「システミック表現」は前向きの他人を傷つけない。皆がこのような言葉遣いで話し合うなら、有望な用途や使用条件に気付く可能性が高い。ポストイット・カードを発明した3M社には「他人のアイディアを殺すなかれ」という格言がある。糊を開発していたとき、くっつき難い糊ができてしまった。その糊を活かそうと考えてポストイット・カードが生まれた。失敗しても用途や使用条件を考えると、ヒット商品が生まれる。

「改善運動」の方向転換

1970年代に生まれた日本の強みは品質管理だ。「何故を五つ」追及して製品や製造方法を改善し、世界に冠たる品質を達成した。品質が向上すると、無駄が減り、生産性も向上する。日本のものづくりは世界中で研究された。新興国や途上国でもKaizenに積極的に取り組んでいる。

ところが、日本の工業製品は過剰品質、過剰機能になる傾向がある。見栄えの良い、多機能の製品が店頭に並び、自分の欲しいものを探すとき神経をすり減らす。カタログには載っていても、店頭にはなく、次の生産サイクルまで待たされる。何かがおかしくなっている。「決められたことを、決められたとおりに行うよう」しつけられた「ものづくり」の現場が最終工程である消費者に「ムリ、ムダ、ムラ」を押し付けている。Kaizenの方向を「顧客志向」に転換しよう。

お客様の用途や使用条件を満たすよう、製品仕様のほかに製造プロセスや工程管理のKaizen方向も転換しよう。原因追究では組織が暗くなってしまう。前向きの言葉遣いで、皆でお客様の使用目的や使用条件を満たすために、どうすべきか話し合って欲しい。ポストイット・カードのように、失敗がヒット商品につながる可能性が十分にある。

顧客志向の改善・改良をITで支える

顧客志向の改善改良に取り組むと、製品が多仕様化する。多仕様化すると量産が困難になり、管理コストも上昇する。この問題の解決手段としてITを活用しよう。従来型のERPパッケージは規格品大量生産向きで、多仕様化すると部品表のデータ量が爆発的に増加する。ある住宅機器メーカでは製品コードを数えると数千万件に達したそうだ。「データ作りはユーザの責任」されているが、人手で対処できる量ではない。筆者たちは非営利団体を編成し、この問題解決に取り組んだ。

顧客志向のKaizenは多種類の類似品を生み出す。類似品には共通部分があり、用途・使用条件に対応する個別部分がある。共通部分に関しては類似品共通データを用意すれば十分だ。個別部分については個別のデータを用意しよう。両者の組み合わせを扱うソフトウエア・エンジンを開発した。住宅機器メーカではデータ量が品種により異なるが、類似品群により異なるが1/100~1/1,000、良いケースでは1/10,000に減少した。その結果として気顧客志向のきめ細かな生産手配ができるようになった。

文責 手島歩三 ―以上―

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