連載DX時代の生産情報システム 第3回「生産情報システムの統合と簡素化」

DX:ディジタル化による改革

ディジタル技術は新しい段階に達した。ビジネスに関わる情報をディジタル化することにより、コンピュータや通信機器を広範囲で利用できるようになる。情報処理の速度が飛躍的に向上し、情報交換する範囲も画期的に拡大できる。人手による事務処理を前提としないで、「本来ビジネス組織が取り扱うべき情報」を採取・蓄積するなら、いま、注目されているAIやIoTなどの新技術も活用できるだろう。

ディジタル改革が遅れ、日本社会の生産性が欧米や新興国に比べて低く、年を追うにつれて格差が広がっている。しかし、慌てて新技術に飛びついても、周回遅れの状態は変わらない。問題は基幹システムの整備だ。従来から日本の企業が構築してきた業務用システムの中に、ビジネス組織が関心を持つ「もの」や「こと」の事実を採取・蓄積し、ビジネス活動に役立てる部分がある。(業績評価課など管理用の部分は除く)それを基幹システムと呼ぶことにしよう。

基幹システムの整備に関して日本企業は遅れ、新技術を十分には活用できない状況に陥っている。

基幹システムを見直す

基幹システムのどこが危ないのか、見直していただきたい。従来のシステム化では「利用者要求」を聞き、要求を固めてソフトウエアを開発してきた。利用者要求の内容と質が問題だ。人手による事務処理の自動化・省力を目指して、事務処理で扱う帳票を参考にディジタル・データを設計して来た。その帳票類が「もの」や「こと」の事実を適正に捉えるようにできているか、見直す必要がある。

もう一つ危ない部分がある。情報処理要求を固めた後は専門家(SEやプログラマ)に任せてシステムを開発した。専門家たちは処理の手段としてデータを設計し、データベースを構築した。データベースの仕様は実現手段であるリレーショナル・データベースに合わせるので、利用者には理解し難い。データベースが適正にビジネスの事実を表現しているかどうか、確認する必要がある。

一言で言うと、人手による事務処理をコンピュータに移し替えるのではDXにならない。

ビジネス組織が関心を持つ「もの」や「こと」の事実を的確に捉えることが基幹システムの要件だ。「機能要求」はその実現手段として調査すべきだ。

先進国が目指したデータ中心システム

商用コンピュータが市場に出回った1960年代に多くのユーザがシステムとソフトウエアの複雑化に悩まされた。変更要求を出すたびにソフトウエアが肥大し、ミスが起きてソフトウエア品質が低下した。この問題を解決しようとソフトウエア工学の様々な方法が出来上がった。情報システムに関してはIBM社のユーザ会が主導し、データ中心型のシステム構想を提唱した。

データ中心に関して日本では十分には理解されていないようだ。これはソフトウエア工学の基本と整合し、理に適っている。ソフトウエアはデータを処理する算法(algorithm)をプログラミング言語で記述したものだ。データがないなら、ソフトウエアの存在意義はない。データ構造に従ってソフトウエア構造を決定することがソフトウエア工学の基本だ。

ビジネス組織が関心を持つ「もの」や「こと」の事実を適正に捉えるようデータ仕様を設計しよう。そのデータを実現する手段としてコンピュータや通信システムを利用して欲しい。基幹システムはそのような仕組みでなければならない。

情報システムのビジネス整合

基幹システムは英語で“Mission Critical System”と呼ばれる。東証のシステム・トラブルで見られた通り、これが停止したらその企業は営業していないとみなされる。基幹システムが扱う情報がビジネス組織の関心対象である「もの」や「こと」の事実を適正に捉えていないなら、業務に差し支える。ビジネスの現場で働く人たちはその問題を解消するためにメモを作り、エクセルでデータ処理する。いびつな基幹システムの周りに外付けで小さな情報処理が行われ、システムは肥大する。

「もの」や「こと」の事実を捉えるようデータを設計するなら、外付けのデータ処理は画期的に解消される。「もの」や「こと」の種類はそれほど多くなく、複雑でもない。必然的に、それを取り扱う情報処理機能も必要最小限に絞り込まれシステムは簡素になる。しかも、システムは現場のビジネスと整合する。これが1970年代に欧米の先進国が目指した情報システム像だ。さらにその後で発達している。

情報システムの使命

自動化と省力や、合理化と標準化は1960年代に日本企業が目指したシステム像だ。先進国はその域から脱け出している。

意思疎通支援

情報システムの使命は「ビジネスに関与する人々の意思疎通を支援すること」だと、1980年代にCODASYL委員会とISOは共同レポートを出した。本来、「情報」意思疎通するために発信される。ビジネスの現場で事実を即刻捉え、データベースに記録し、共同参照できるようにすることが肝要だ。そうすれば、働く人たちの事実認識が一致し、業務連携を円滑に行える。

・実世界のシミュレーション、未来のためにITを使う

経営学者P. F. ドラッカーは最後の著書「テクノロジストの条件」で日本社会のITの使い方について二つ重要なことを勧告している。一つ目は上記の意思疎通のためにITを使うことだ。もう一つは「未来のために」ITを使うことだ。激しい社会情勢の変化、企業間競争の中で未来がどうなるか推測することは難しい。可能性のある近未来を探り、好ましい近未来を招き寄せるほうが勝ちだ。それほど難しい話ではない。例えば引き合いが来たとき、受注すれば納期がいつになるか、他の既受注に迷惑を掛けないか、ムリな残業にならないかなど、正確に素早く確認して有利な引合いを受注することだ。

・多様性を上手に扱う

通信技術が発達し、世界中を相手にビジネスを行えるようになった。世界の市場は多様だ。その多様性に的確に対処することが日本の製造業にとって肝要だ。狭い市場の中で多々各場合、顧客に合うよう製品仕様を調整することも欠かせない。

ドイツは第四次産業革命「インダストリ4.0」を目指している。その中核技術が「マス・カスタマイゼーション」とIoTだ。マス・カスタマイゼーションは多様な顧客に合うよう製品仕様を調整して個別受注生産し、価格競争に勝てるよう上流工程で部品類を量産する複雑な技術だ。IoTはその複雑な製造プロセスを同期・連携させる方策の一つだ。広義のサプライチェーン管理もその中に含まれる。

MASPの対応

MASPは1998年以来、日本型マス・カスタマイゼーションを可能にするために情報技術を整備してきた。「日本型」とは工程において顧客満足を作り込むことだ。従来型の部品表では「日本のものづくり」の多様性を表現できない。現場で働く人たちの持つ技術・技能を的確に使い分けられるよう、統合工程部品表管理エンジンを開発した。仕様未定でも先行手配し、上流工程での量産効果を高めるよう「生産シミュレータ」を開発した。好ましい近未来を探るために役立つことを幾つかの企業で確認できた。

稿を改めて、これらの技術を紹介する予定である。

―以上―

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