連載DX時代の生産情報システム 第4回「日本型マス・カスタマイゼーション」

変種・変量生産?注目される新生産方式

 近頃奇妙な生産方式名を見かける。多品種少量生産、受注設計生産などと似た生産方式を指すらしい。1990年代にB. Joseph Pine Ⅱの“Mass Customization”が翻訳され、注目された。内容の多くが「日本の多様なものづくり」の紹介だったので、早々と忘れられた。しかしPineは製造ビジネス改革(DX相当)の方向としてマス・カスタマイゼーションを提唱する。つまり、「顧客ごとにカスタム化した製品やサービスを低コストでかつ高い品質で届けること」ビジネス改革を目指す。

ドイツは国を挙げて第四次産業革命を目指している。その中核技術は「マス・カスタマイゼーション」とIoT(Internet of Things)だ。低価格と高品質を保つためには材料や部品を然るべき量まとめて作る必要がある。カスタマイズすると少量生産さらには一品生産になる。従来の考え方で言うと、ビジネスモデルが異なる生産方式を繋ぎ合わせなければならない。

 

デル・コンピュータのビジネスモデル

1980年代にデル社のビジネスモデルが注目された。顧客がデルのホームページを参照し、自分の求めるパソコン仕様を指定し、ワンクリックすると受注する。数日後には完成品が顧客に届けられる。その背後でデルは主要部品の在庫を部品メーカに開示し、在庫切れが起きないよう補充するよう契約を結んでいる。つまりサプライチェーン管理方式の改革でもある。畏友杉野周氏(故人)によると、デルの主要顧客は米軍である。緊急時にすぐ入手でき、筐体が一定の形で厳しい使用環境に耐えられる。故障してもコンポーネントの入れ替えで済む。軍が歓迎するのは当然のことだ。

 

日本の多様なものづくりの悩み:生産手配

日本のものづくりは先進国の工業製品の模倣から始まった。品質管理技術を導入して品質と生産性が高まり、1980年代には世界を制覇したように見えた。しかし、その背後では重大な問題が起きた。品質安定には、同一品目をしかるべき生産量をまとめる必要がある。競争激化の中で顧客を獲得するには製品をカスタマイズしなければならない。製品仕様当たりの生産量は低下する。部品表データは仕様毎に必要だ。結果として、部品表データの量が爆発的に増加した。従業員数約2,000名の企業で1970年代に数万件であったデータ量が1990年代には数百万件になった。仕様の追加や材料変更に伴う部品表データの更新に手間と時間が掛かり、生産手配が遅れがちになった。販売リードタイムを短縮しようと見込み先行手配すると、仕様違いに伴う中間製品の在庫が増えた。

日本の製造業には「知恵者」がいる。部品表管理エンジン(以下“BOM”と略記)を自社用に拡張し、さらに所要量計画ソフトウエアを手直し、表面的には問題解決した。しかし、データ量問題は残り、ソフトウエアが肥大し、度重なる変更によりソフトウエア品質が低下した。ある大企業の専務が嘆いた。「自分がビジネスを改革しようと思うと、システム部門が実行まで半年から1年半ほど待ってくれという。自分よりコンピュータのほうが偉いのか!」ソフトウエアの変更・拡張の困難が日本の製造業の足枷となっている。

 

 

日本型マス・カスタマイゼーションを可能にする

ドイツがマス・カスタマイゼーションを目指す背後ではESPRIT(ヨーロッパの標準化機構)が「つながるための標準」=インターフェース標準の設定に取り組んできた。部品類をモジュール化し、インターフェースさえ守れば、内部は自由に設計・改良できる。

近頃、日本では多仕様化した製品の標準化?に取り組んでいる。重要顧客の要望を切り捨てられないので。製品は多機能になり、個々の利用者にとって使わない機能が豊富だ。しかも、その分だけ値段が高い。マス・カスタマイゼーションに逆行している。

日本の中小工場で働く人たちは様子が違う。顧客の要望を聞いて部品の仕様を変更し、適切に加工して対応している。モジュール組立だけでなく、工程で品質と顧客要望を作り込むマス・カスタマイゼーションを自然に行っている。技術データ管理支援協会(通称MASPアソシエーション)は日本のものづくりをデータに写し取り、ITにより支援し、マス・カスタマイゼーションも可能にしようと考えた。

 

多仕様を表現する統合工程部品表とその管理エンジン“FBOM

製造現場には技術・技能者が居り、様々な仕様に対応して加工する能力を用意している。これをお客様のために活用できる仕組みが必要だ。まず、「作業仕様」をマスタデータとして用意しよう。次に、お客様の求める製品や部品を作る「製造プロセス」を用意しよう。製造プロセスでは一連の作業仕様の順序を表現しよう。つまり、「ものづくり」の現場をあるがままにマスタデータとして表現することが肝要だ。自然科学の一環として、「ものづくり」を捉えることが出発点だ。

お客様が製品を何のために使いたいか「用途」を聞き、さらにどのような場で使うか「使用条件」を聞いて、対応方法を考えることにしよう。「用途」には製品機能で対応する。「使用条件」にはサイズや形状、色など加工により対応できる。「顧客」の用途・使用条件を聞くと作り方を考え易い。用途・使用条件に応じて部品構成や加工を選択・調整できるようマスタデータ「統合工程部品表」を作ればよい。用途が増え、使用条件が増えて行くけれど、共通作業に関しては同じデータを再利用すれば済む。

 

仕様未定での見込み先行手配と仕様決定要請日計算

お客様が迷い、用途・使用条件の一部分をすぐには決められない場合がある。しかも、納期は迫ってくる。そのような場合は、決められない用途・使用条件について「未定」として生産手配できる。

次回紹介する所要量計画ソフトウエアでは、仕様未定でも共通部品や共通材料を調達手配できる。さらに、生産スケジューラに未定の用途・使用条件を「いつまで」に決める必要があるか、計算させることができる。お客様に「この日までにこの用途・使用条件を決めて下さい。そうすれば納期通りに納品できます」とお願いしよう。そうすれば見込み違いによる仕掛在庫の発生を防ぐことができる。

 

品目コードは無くてもよい

従来型の部品表では製造に関わる全ての品目に対して「品目コード」を発番する必要がある。品目コードによって仕様が異なることを表現(識別:identify)する。しかし、類似していることは表現し難い。多仕様化すると、一仕様当たりの生産量が少なくなり、生産性が低下する。それ以上に管理が複雑になり、間接費が増加することが悩みの種となる。この問題を解消しようと、品目コードを階層化して類似品の区分を表現する企業が少なくない。階層が二桁になっているケースがかなりある。しかし、この方式では下の階層に関しては共通であることに気づきにくいので、量産効果が上がらない。引合いが来たとき、類似品があるにもかかわらず、新規開発扱いする事態が頻発する。

統合工程部品表では類似した品目をまとめて「品目群」として登録する。個々の品目の仕様が異なるとき、用途・使用条件に着目して、同じであれば、同じ作業仕様データを、異なれば、それに対応する作業仕様データを用意すればよい。品目群の中で共通の作業仕様データは共同利用すればよい。したがって、MASPが用意したソフトウエアは品目コードなし、いわば「コード・レス」で作動できる。

近頃の電気アイロンや掃除機と同様に、製造ビジネスも「コード・レス」にして、自由にマス・カスタマイゼーションに取り組んでいただきたい。

―以上―

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