連載DX時代の生産情報システム 第5回「製番管理方式とタイムバケット管理方式の統合」

日本の初期の生産管理方式

日本の伝統的な生産管理方式は「製番管理」だ。日本の工業化が始まった頃、図面に部品構成や加工方法を書き込み、生産手配した。仕様が異なる製品を作るとき、製番(製造番号)を変え、番号の若い順に部品を作ることにして、混乱を防いだ。部品の仕様変更が起きたとき、製番付きで部品手配すれば、間違いを防ぐことができる。製品仕様の完成度が低く、改善・改良を重ねるとき、製番管理方式は実に有効に機能する。航空機の「号機管理」はゼロ戦の改良に役立った。トヨタの「号口管理」は自動車の国産化に成功した鍵となる方式だ。

商用コンピュータが出回った1960年代に磁気テープ装置を用いて資材調達計画を策定するとき、データ量が多くて磁気テープに収まらない。データ量を削減するために「タイムバケット」(時間枠)毎に所要量を合計する方式が役立った。これは米国の家電業界で考案されたらしい。

 

マス・カスタマイゼーションを可能にする「製番管理」

2020年代のいま、「マス・カスタマイゼーション」が再び注目されている。個客毎に仕様が異なる製品を作ろうと思うなら、製番管理方式が圧倒的に有利だ。

タイムバケット管理方式では、親品目が異なっていても、子品目の所要量を合計するので、特定顧客のための生産手配が極めて難しい。やむなく、「標準仕様の製品」を量産し、最後にオプション部品を追加するやり方でカスタマイズするしかない。運転席の灰皿を小物入れに変更する程度だ。

コマツも大隈鉄工も製品や主要部品類は製番管理し、共通部品類は量産効果をあげるためにタイムバケット管理方式を採用している。二つの異質な生産管理方式を可能にするために、情報システムの再構築に数年を要している。システム開発者の話では、両方式の繋ぎ目に苦労したとのことである。

その結果として生産工程の上流では共通部品類を量産し、中流から下流では売れ行きに合わせて主要部品の仕様を調整し、下流で顧客の求める仕様の製品を作り込む本格的な「マス・カスタマイゼーション」が可能になり、強みを発揮している。

 

マス・カスタマイゼーションの悩みの種:負荷調整

タイムバケット方式を中心に組み立てられた生産管理方式の典型がMRPシステムだ。これに人事・労務・給与、経理・会計機能を追加した、製造業用ERPパッケージが1990年代に注目された。MRPシステムの弱点は負荷調整ができないことだ。タイムバケット単位で部品や材料の調達(購入or生産)を計画するので、タイムバケットの枠を超えて負荷調整することは許されない。前倒しすると、材料欠品になる。後倒しすると納期遅れになる。タイムバケットの中は負荷オーバーか、暇を持て余すかのいずれかが多い。部品生産の現場では仕事のムラがひどく、ムリとムダに悩まされる。この問題を解決策として「ラフカットMRP」が考案されたが、対応不十分だ。

マス・カスタマイゼーション)を目指すなら、負荷調整問題の解決に正面から取り組む必要がある。

 

負荷調整に適している製番管理方式

1990年代の末頃、ある商社の依頼で米国のソフトウエア会社の日本進出をサポートした。名刺交換後すぐに「我社の生産スケジューラは製番管理方式です。これは日本市場に受け入れられるでしょうか?」と質問が来た。E. M ゴールドラットの「制約条件の理論」(ボトルネック工程をフル活用する)に基礎を置く生産スケジューラは製番管理方式を採用している。製番管理方式では生産オーダ当たりの生産量は少なく、必然的に稼働率が低下する。この問題解決方策として、負荷調整が必須だ。

負荷調整できても、少量生産では段取替が増え、生産性が低下する。対策を知っているのだろうか? そこで「同じものをまとめるよう、スケジューラに工夫させるのか」と質問してみた。「現場の人は馬鹿ではない。スケジュールを開示しておけば、同じものや加工内容が似ているものはまとめて加工しますよ」と答えが返ってきた。ゴールドラットが主張する“Time Buffer”の意味を正しく言理解している。

 

生産リードタイムと需要予測の関係

原材料を加工開始して、最終製品が完成するまでの時間が「生産リードタイム」だ。顧客注文を受けて、商品を納品するまでの期間を「販売リードタイム」と呼ぶ。お客様は「欲しいものを、欲しいとき、欲しい量だけ」買えることを望む。販売リードタイムが短いなら販売競争に有利だ。需要予測して製品あるいは主要部品を大量に作っておけば、販売リードタイムを短縮できる。需要予測が外れると大量の在庫を抱える。在庫期間中は運転資金が眠るので、資金繰りに苦しむ。技術革新の速度が速い現在では在庫品が陳腐化して負債になる危険性がある。生産リードタイムが短ければ、生産計画は当たり易い。予測でなく、販売見通しに基づいて生産計画を策定し、在庫量を減らすことができる。

 

タイムバケットのサイズと生産リードタイムの関係

タイムバケットのサイズを長くすると、まとめて調達できる。しかし、子部品を少なくとも一つ前のバケットで調達しかなければならない。部品構成(親-子関係)の階層を下まで辿ると、「バケットサイズ×階層=生産リードタイム」であり、実際の加工リードタイム合計より大幅に伸びてしまう。ある精密製品では系列企業もMRP方式で所要量計画を策定していた。材料メーカから部品メーカを辿り、製品完成まで1年近く掛かる。需要予測は狂いがちだ。材料メーカの人たちが実際の加工に要する時間を調べたところ、2週間以内で済むと分かった。とんでもない間延びだ。

この問題を解決しようと、「バケットレスMRP」が提案された。バケット毎の所要量を合計できないので、量産効果は出ない。構成品目(部品や材料)の納期を「固定リードタイム(負荷を考慮しない部品生産リードタイム)」を用いて計算できるが、実行可能性は保証されない。作業改善して加工リードタイムを短縮しても、MRPシステムでは、生産リードタイム短縮につながらない。

 

独立需要品目と従属需要品目に着眼する製番管理方式とタイムバケッケト方式の統合

MRPシステムの基本は、独立需要品目について「基本生産スケジュール(MPS : Master Production Schedule)」を策定することだ。従属需要品目については、独立需要品目の生産オーダを部品展開して所要量を計算し、固定リードタイムを用いて調達納期を計算し、MRP(Material Requirements Plan)を生成する。これは、T型フォード以来の、「部品生産方式」(部品工場が独自に部品を計画生産し、自動車組立工場に供給)の抜本的な改革案だった。部品在庫量は減少し、以前より欠品は少ない。

しかし、それが成功する理由は、製品がベルトコンベア上で(一定のペースで)組み立てられることだ。機械加工が多く、加工対象物の動きが複雑な工場では負荷調整できないので、役に立たない。

マス・カスタマイゼーションでは製品あるいは主要コンポーネントを独立需要品目として生産オーダを発行して重要部品類を製番管理方式で紐付け所要量計算し、部品や材料の共通性が高いものは量産効果が出やすいようタイムバケット方式で所要量計算することが極めて望ましい。したがって、性格が異なるERPパッケージを繋ぎわせるためのソフトウエアの改造に費用と時間が掛かる。

MASPが用意した供給計画エージェントでは、統合工程部品表を参照し、品目ごとに指定された方式(製番管理orタイムバケット管理)の所要量計算モジュールを作動させる。したがって、上記のソフトウエア改造は不要だ。この仕組みは1970年代に長野県の企業で実装し、大いに役立った。

―以上―

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